広島高等裁判所 昭和31年(ネ)145号 判決 1958年12月02日
第一審 原告 西日本海事工業株式会社
第一審 被告 国
補助参加人 堀口行松
主文
原告の本件控訴を棄却する。
原判決を次の通り変更する。
被告は原告に対し金五万円及びこれに対する昭和二十七年十一月三十日より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを十分し、その九を原告、その一を被告の各負担とする。
補助参加につき生じた費用は、第一、二審とも原告の負担とする。
事実
原告代理人は、「原判決中原告敗訴部分を取消す、被告は原告に対し金三百七十一万九千円及びこれに対する昭和二十七年十一月三十日より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被告及び補助参加人の負担とする、被告の本件控訴を棄却する」との判決を求め、被告代理人は「原判決中被告敗訴部分を取消す、原告の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする、原告の本件控訴を棄却する、」との判決を求めた。
当事者双方の主張は、原告代理人において「本件仮差押物件をその執行解放前持去つた者の氏名は不明である。訴外上山逸雄は商業登記簿上原告会社の取締役として登記せられているが、同人は原告会社の庶務係であつて、取締役に選任せられたことはなく、勿論原告を代表する権限はなかつた。仮に同人が原告を代表し得べき取締役であつたとしても、同人と訴外長西盛徳との間における本件仮差押物件の売買は通謀虚偽表示であつて無効のものである」と述べ、被告代理人において、「原告の右主張事実中、右売買が通謀虚偽表示であるということは否認する。本件仮差押物件を持去つた者は長西盛徳である。そして同人が右物件を持去つたのは、同人が仮差押債権者たる村本登に対し第三者異議の訴を起し裁判外の和解において村本をして右物件に対する仮差押の解除を約せしめたからであり、右物件が野坂執行吏の管轄区域外に保管せられていたためではない。右長西の持去りを防ぎ得る唯一の方法は、右物件を野坂執行吏の住所に保管することであつたと考えられるが、右物件はその性質上同執行吏の住所にこれを保管することは不可能であつたから、右持去りを防ぎ得る方法がなかつたものといわわばならない。従つて、右持去りにより原告が損害を被つたとしても、その損害と野坂執行吏の行為との間には何等因果関係がないことが明白であるから、原告の本訴請求は失当である。」と述べた外、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
証拠の関係は、原告代理人において当審における証人広岡健治、久米登、岡野重次郎の各証言、原告会社代表者本人尋問の結果を援用し、乙第四号証中原告会社代表者名下の印影の成立を否認するが、その印影が原告会社社長の印により顕出せられたものであることは認める、それは他人が右社長印を無断で押して偽造したものであると述べ、被告代理人において当審証人野坂藤三郎、葛西正美の各証言を援用し、甲第六、第七、第八号証の各成立は不知であると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
原告は沈没船及び海没物の引揚並びに海運業を目的とする株式会社であること、山口地方裁判所岩国支部執行吏野坂藤三郎は訴外村本登の委任により、債権者たる同訴外人より債務者たる原告に対する広島地方裁判所昭和二六年(ヨ)第一二〇号仮差押決定に基く執行として昭和二十六年五月二十八日岩国市大字装束元海軍燃料廠跡海岸において、別紙目録記載の有体動産の仮差押をなし、翌二十九日右債権者村本登の代理人たる弁護士堀口行松の申出により右仮差押にかかる本件物件全部を右債権者に保管させることとしてこれを同弁護士に引渡したこと、同弁護士は即日本件物件を広島市宇品町海岸埋立地株式会社大洋海事に運搬し、同会社をして保管せしめたこと、右債権者は昭和二十六年十二月二十六日広島地方裁判所に前記仮差押命令申請の取下書を、次いで昭和二十七年三月四日野坂執行吏に本件有体動産仮差押解放申請書をそれぞれ提出したこと、原告は本件物件の引渡を受けるため同月十日野坂執行吏と共に前記株式会社大洋海事に赴いたところ、本件物件はすでに昭和二十六年十二月末頃同会社より第三者に、更にその者より他人に順次引渡され、現在の占有者及びその所在場所も明らかでないことが判明し、原告が本件物件の引渡を受けることは不能に帰したことは、いずれも当事者間に争がない。
ところで、原告は本件物件は前示仮差押執行当時原告の所有に属していた旨主張し、被告は本件物件は右執行前たる昭和二十六年五月五日原告より訴外長西盛徳に譲渡せられていた旨主張するので、先ずこの点について判断する。
原審証人上山逸雄の証言(第一、二回)、原審(第一、二回)及び当審における原告会社代表者本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、本件物件は前示仮差押執行当時原告の所有物であつたこと並びに原告は長西盛徳に対し本件物件を譲渡した事実の存在しないことを認めることができ、原審証人長西盛徳の証言(第一、二回)中右認定に反する部分は信用できない。もつとも、乙第四号証中には昭和二十六年五月五日原告が長西盛徳に対し本件物件を代金十五万円で売渡した旨の記載があるけれども、原審証人上山逸雄の証言(第一、二回)及びその証言により真正に成立したものと認め得る甲第六号証によれば、右乙第四号証は後にくわしく説明する様な経過で前示仮差押執行後本件物件に対する右仮差押を解放せしめる目的を以て原告会社取締役上山逸雄と長西盛徳との間において通謀して作成せられた内容の虚偽な偽造文書であることを認め得るから、右乙第四号証によつても、前示認定を左右することはできない。また、甲第五号証、乙第一、第三号証の各記載も前示認定を動かすに足りない。
しからば、原告は前示の通り昭和二十六年十二月末頃本件物件が他人に引渡されその所在が不明となつたことに因り、本件物件の所有権を失い損害を被つたことになる。そこで、原告主張の通り右損害の発生につき野坂藤三郎執行吏に過失が有つたか否かについて判断する。
原本の存在及び成立につき争のない甲第二、第三、第五号証、原審証人堀口行松、原審及び当審証人野坂藤三郎、当審証人葛西正美の各証言を綜合すれば、前示の通り執行吏野坂藤三郎は昭和二十六年五月二十八日岩国市元海軍燃料廠跡海岸において本件物件に対し仮差押の執行をしたのであるが、本件物件は山九産業運輸株式会社が原告の依頼により右海岸に陸揚げ保管していたものであるところ、同会社は右仮差押の執行には同意したが野坂執行吏に対し引続きこれを保管することを拒絶したこと、本件物件は容績も大きく重量も重いものなので、野坂執行吏はその保管方法につき苦慮していたところ、債権者村本登の代理人堀口行松弁護士より本件物件を同債権者の関係している広島市宇品町海岸埋立地株式会社大洋海事において保管したい旨の申出があつたので、同執行吏は本件物件の保管を堀口弁護士に任せたこと、本件物件は広島市宇品町の前記場所に保管する以外適当な保管方法のない程の特殊な物ではなかつたこと、野坂執行吏は山口地方裁判所所属の執行吏であり、広島市宇品町は山口地方裁判所の管轄区域外にあるのであるが、同執行吏は執行吏の職務の執行については管轄区域の制限が存しないものと誤解し、堀口弁護士をして誠意を以て本件物件を管理し必要な場合は同執行吏の指定する場所に提出する旨誓約せしめた上、同月二十九日本件物件を堀口弁護士が広島市宇品町に運搬することを許したこと、本件物件が広島市宇品町に送られた後、野坂執行吏は同所に赴き本件物件が如何なる場所に如何なる状態において保管せられているかを点検したことなく、昭和二十六年十二月末頃本件物件が長西盛徳により他に売却せられ紛失するまで全くこれを放置し、その間において債権者村本登或はその代理人堀口弁護士に対し本件物件の保管状況を尋ね或はこれにつき報告を受けたこともないこと、広島市宇品町株式会社大洋海事は債権者村本登の依頼により本件物件中機械類は同会社の倉庫に、檜本柱はその構内に保管していたが、本件物件に対し野坂執行吏の施した仮差押の標示は脱落し、本件物件は仮差押の標示のない儘で保管せられていたことを認めることができる。
およそ、執行吏はその所属地方裁判所の管轄区域内に限りその職務を行い得るものであつて、法令に特別の定めのない以上右管轄区域の外に出て職務を行うことができないものである。従つて、山口地方裁判所所属の執行吏である野坂藤三郎が本件仮差押物件を同地方裁判所の管轄区域外である広島市宇品町において保管することを債権者に任したことは、同執行吏が自己の責任において保管すべき本件仮差押物件を同執行吏の職務を行うことのできない場所において保管せしめることになるのであつて、執行吏の職務上の義務に違背した違法な処置であることは明らかである。更に、執行吏が差押或は仮差押にかかる有体動産を第三者或は債権者等に保管させる場合にも、その第三者等は執行吏の占有機関となるに止まり、執行吏は引続きその責任においてこれを占有保管すべきものであるから、執行吏はその有体動産が適当な場所に適当な方法で保管せられるよう監視注意する職務上の義務がある。しかるに、野坂執行吏は、前示認定の通り執行吏の職務執行については管轄区域の制限がないものと誤解して本件仮差押物件を広島市宇品町において保管することを債権者に許しながら、その後本件物件が紛失するまで一度もその保管場所に行つたことがなく、従つて本件物件が如何なる場所で如何なる方法により保管せられているか或は仮差押の標示が輸送等のために脱落していないか等の事実を調査することなく放置していたものである。しからば、野坂執行吏は本件物件に対する前示仮差押の執行につきその職務上の義務に違背し或はその注意義務を怠つたものであり、同執行吏に過失のあつたことは明らかである。そして、同執行吏が本件物件を同執行吏の職務を行い得る管轄区域外に運び出すことを許さず或は本件物件の保管を債権者に任せたまま放置していなかつたならば、本件物件は仮差押執行中に紛失するようなことはなかつたであろうということは弁論の全趣旨により推認し得るところであるから、同執行吏の過失と原告の前示損害との間に相当因果関係の存することは明らかである。
被告は、本件物件が紛失するに至つたのは、長西盛徳が債権者村本登と裁判外の和解をなした上本件物件を仮差押物件と知りながらこれを持去り他に売却したがためであつて、野坂執行吏の過失と原告の被つた損害との間に因果関係がない旨主張するけれども、同執行吏が本件物件をその管轄区域内において十分の注意を以て自ら保管し或は他人に保管させていたならば、仮差押の解放後は知らずその執行中に長西が本件物件を持去り他に売却することができたとは考えられないから、本件物件の紛失により原告の被つた損害と同執行吏の過失との間に因果関係がないということはできない。
次に、被告は本件物件の所有権喪失については原告がその行為に因り原因を与えたものであるから、被告に対する損害賠償請求は民法第七百八条を類推して許されぬところである旨主張するので、この点について判断する。
原本の存在及び成立につき争のない乙第一、第二、第三号証、前示甲第五、第六号証、乙第四号証、原審証人堀口行松、上山逸雄(第一、二回)、当審証人葛西正美、久米登の各証言原審(第一、二回)及び当審における原告会社代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、前示の如く昭和二十六年五月二十八日本件物件に対し仮差押の執行がなされた後、原告会社の取締役で庶務係をしていた上山逸雄及び原告会社に雇われて現場主任をしていた長西盛徳の両名は共謀の上、本件物件に対する仮差押を解除せしめようと企て、長西において原告より本件物件を買受けた事実がないのにかかわらず同年六月中本件物件を原告会社代表者社長武岡賢より長西盛徳に対し代金十五万円で売渡した旨の同年五月五目附の同社長名義の売渡証(乙第四号証)並びに本件物件を長西盛徳において引渡を受けたときは直ちにこれを原告に返還する旨の同日附の念書(甲第六号証)を作成したこと、長西盛徳は本件物件につき所有権を有しないのにかかわらずあたかもその所有者である如く装つて同年六月五日本件物件の仮差押債権者村本登を被告として本件物件につき第三者異議の訴を山口地方裁判所に提起したこと、村本登は長西盛徳より前示乙第四号証の売渡証を示されて本件物件が売買により長西の所有に属していたものと信じ、右訴訟において争うことを断念し、裁判外において長西と示談をして本件物件の所有権が長西に属することを認めこれに対する前示仮差押執行を解放することを約しその旨の示談書を作成したので、長西盛徳は同年十二月二十六日前記第三者異議の訴を取下げたこと、村本登は同日広島地方裁判所に対し前示仮差押命令申請の取下書を提出し、次いで昭和二十七年三月四日野坂執行吏に対し右仮差押執行解放申請書を提出したこと、長西盛徳は昭和二十六年十二月末頃村本登の依頼により本件物件を保管していた前記株式会社大洋海事に赴き前記示談書を示して村本登との間に右の如き示談が成立している旨を告げて同会社より本件物件の引渡を受けた上、原告に無断でこれを他に売却しその代金を取得したこと、並びに上山逸雄は原告会社の取締役であるが原告会社を代表する権限を有せず、前示長西盛徳との共謀行為については原告会社代表者の了解を得ずに上山が長西に頼まれて勝手に乙第四号証の売渡証を偽造したものであることを認めることができる。原審証人長西盛徳の証言(第一、二回)中右認定に反する部分は信用できない。しからば、前示上山と長西との共謀行為は、上山に原告会社の代表権がなくまた原告会社代表者に無断でしたことであるから、これを原告の行為と認めることはできない。従つて、原告の行為が本件損害の原因となつたものということはできない。勿論原告の被用者たる上山逸雄、長西盛徳両名の前示共謀行為により長西があたかも本件物件の所有者であるかの如く装い本件物件をその保管人から引渡を受けこれを売却するに至つたものであつて、原告の被つた損害の主たる原因は右両名の所為に因るものであることは明らかである。しかし、前に認定した如く、野坂執行吏の前示過失もまた右損害発生の一つの原因となつているのであるから、原告の被つた損害が主としてその被用者の行為に因り生じたものであつても、野坂執行吏の過失を理由とする原告の被告国に対する損害賠償請求権が全く排除されると解することはできない。右に認定した如き事情は、後に判断する如く本件損害の発生についての原告側の過失として過失相殺の理由となるのに止まる。従つて、被告の前記主張は採用できない。
更に、被告は長西盛徳が本件物件の引渡を受けたことに因り原告の代理占有者となつたことになるから、原告は本件物件の引渡を受けたことになりその後に本件物件が紛失しても、その損害と野坂執行吏の過失との間の因果関係は中断される旨主張する。前示甲第六号証の念書には、事件の解決の際には直ちに本件物件を長西より原告社長武岡賢に返還する旨の記載があるけれども、前に認定した通り右甲第六号証は前示乙第四号証の売渡証の返証として作成されたもので、右各書証はいずれも上山逸雄が長西盛徳と共謀の上原告代表者に無断で作成したものであるから、右甲第六号証によつて、原告と長西との間に長西において本件物件の引渡を受けた際直ちに原告に返還する旨の契約が成立したものと認めることはできないのみならず、長西が前示の如く昭和二十六年十二月末頃株式会社大洋海事より本件物件の引渡を受けるに当り、原告の代理人としてこれを受取り原告のために代理占有するに至つたことを認めるに足る他に何等の証拠も存在しない。従つて、被告の右主張もまた理由がない。
執行吏は被告国の公権力の行使に当る公務員であるから、執行吏がその故意又は過失によつて違法に他人に加えた損害について被告は国家賠償法によりその損害賠償の責に任ずべきものである。従つて、野坂執行吏がその職務執行につき前示過失により違法に原告に加えた前示損害につき、被告はその損害賠償の責任を負うことは明らかである。そこで、先ず、原告が本件物件の所有権喪失により被つた損害の額について判断する。
原本の存在及び成立につき争のない甲第一号証、乙第一号証、前示乙第四号証、原審証人堀口行松、長西盛徳(第一、二回)、原審及び当審証人野坂藤三郎、当審証人岡野重次郎の各証言を綜合すれば、本件物件は長西盛徳が原告のため中古品を代金二十五万円で買受け、これを相当額を費やして修理したものであること、原告は本件物件を戦艦陸奥の引揚作業に使用していたが、故障を生じたため放置されていたものであること、昭和二十六年五月二十八日野坂執行吏が本件物件につき仮差押の執行した際には、その内機械類は破損していて使用するためには相当の修理を要する状態であつて、殆ど鉄屑としての価値を有するに過ぎなかつたので野坂執行吏は右執行に立会つた債権者村本登、堀口弁護士等の意見を参酌して本件物件の価格を金八万六千円と見積り、その旨仮差押執行調書に記載したこと、前に認定した通り上山逸雄と長西盛徳とが共謀して本件物件の売渡証(乙第四号証)を作成するに当り長西は本件物件の価格を金十五万円位と評価していたので、代金額を金十五万円と定め、長西盛徳は本件物件につき前示第三者異議の訴を提起するに当り訴訟物の価格を金十五万円としたこと、金物商岡野重次郎は昭和二十六年八月頃本件物件中(イ)のボイラー及び(ロ)の蒸気ウインチを代金十四、五万円で買受の交渉を受け、これを代金十一、二万円なら買受けると答えたため、価格が折合わず売買が成立しなかつた事実のあることを認めることができる。以上に認定した諸事実を合わせ考ると、昭和二十六年十二月末頃における本件物件の価格は金十五万円であつて原告の被つた損害は右と同額であると認めるのを相当とする。原審証人武岡正人当審証人広岡健治、久米登の各証言、原審(第一、二回)及び当審における原告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用し難い。また甲第九号証の記載は、原審証人深見一雄の証言によれば刑事事件のため原告会社の書類帳簿等が全部押収された後、確かな資料もなしに記載されたものであることを認め得るから、甲第九号証の記載によつては前示認定を左右し難く、他に右認定を左右するに足る証拠は存在しない。
そこで、被告の支払うべき損害賠償額について判断する。
原告の被用者たる上山逸雄、長西盛徳の両名が共謀の上本件物件があたかも長西の所有物であるかの如き偽造の証拠(乙第四号証)を作り、長西がこれを利用して仮差押債権者村本登に対し第三者異議の訴を提起し、裁判外において村本登をして本件物件が長西の所有であることを認め本件仮差押の執行を解放する旨を約さしめた上、長西が本件物件の引渡を受けてこれを他に売却したことが、原告が損害を被むるに至つた主たる原因をなしていることは前に認定した通りである。民法第七百二十二条第二項にいわゆる被害者の過失の中には、被害者により使用せられる者の過失も含まれるものと解するのを相当とするから、原告の被つた本件損害が主として原告の被用者たる前示両名の行為に因つて生じたものである以上、右損害の発生につき被害者たる原告に過失があつたものとして損害賠償額の算定につきこれを斟酌すべきものである。そして以上に認定したすべての事情を基礎として考えるとき、過失相殺の結果被告の原告に対し支払うべき損害賠償額は金五万円と定めるのを相当とする。従つて、原告の本訴請求中、被告に対し金五万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日たる昭和二十七年十一月三十日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延利息の支払を求める部分は正当としてこれを認容すべく、その余の請求は失当としてこれを棄却すべきものである。右と異なる原判決は変更をまぬがれない。
よつて、被告の本件控訴は右認定の限度において一部理由があるが、原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用及び補助参加の費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条、第九十二条、第九十四条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 岡田建治 佐伯欽治 松本冬樹)
目録
(イ) ボイラー竪型(内径三尺六寸、高さ九尺九寸) 一基
(ロ) 蒸気ウインチ(巻揚機)但し附属ワイヤー二百米付 一基
(ハ) 水タンク(直径三尺四寸、高さ六尺六寸) 二基
(ニ) 檜木柱(元口一尺一寸、末口八寸、長さ四十七尺) 二本